人口なんか気にしない、ニーズなんか気にしない

フナハシドットコム代表 舟橋正浩

 2004年7月。ちょっとした快挙があった。動物園マニアなら誰でもご存知の北海道旭川市にある旭山動物園が、月間来場者数で、あの上野動物園を抜き堂々の一位に輝いた。 確かにこれは快挙なのだが、その前にも既に動物園業界の常識のある常識を打ち破っていたという点こそが最大の快挙だ。その常識というのは、

動物園を設置している都市の人口の2倍の来場者数があれば成功

という常識だ。すなわち、動物園というのは近隣の人口に依存するビジネスモデルであるという考えだ。しかし、この旭山動物園は 昨年の段階で既に名古屋の東山動物園をゆうに抜き去り、人口の圧倒的多い地域の動物園より多くのお客が来ているのだ。

■人口という常識

 ちょっと考えてみよう。なぜそのような常識がまかり通っていたのだろう? 動物を展示するという動物園そのものの機能としてみた場合、ほと んどの動物園でほとんど差はない。しいて言えば入場料であったり、 中での付帯の遊園地の違い程度であろう。そう考えると、地域内に動物園がひしめく都市というのはまずありえないであろうから、価格競争ということはほとんどないだろう。付帯遊園地という観点で 行けば、ディズニーランド級の遊園地でもあれば話しは別だろうが、 そういうことがなければ、その遊園地が動物園集客の決定力であるということはないだろう。 また、規模の差こそあれ、地域間でその動物園自体の差というのは それ程ないだろう。若干珍しい動物の有無はあるかもしれないが、 TV等がこれほど発達した今、その点が集客力になることはそれ程ないと思われる。そうした時に地域を越えて、動物園に足を運ぶこともないだろうし、地域内においても何度も足を運ぶ代物ではない。 すると、一人年n回、「地元の」動物園来場。となり、

年間動物園来場者数=地域基礎人口×n

となる。せいぜい、地元の人にちょっとあきられない工夫や低料金化なんかで、このnを上昇させる工夫をするのが関の山となる。

■ニーズという常識

 しかし、この図式は簡単に打ち破れることが分かるだろう。地域を越えてみたいと思う動物園を作ってしまえば良いのだ。動物園その ものの 基礎機能 = 動物 の見せ方を変貌させてしまえばそれで事足りるのだ。ここでポイントになるのは

誰もやったことのない変貌はどうやれば可能になるのか?

という点に尽きる。いわば、そのものをオンリーワンに変えること だ。世間で良く言われるのは、お客の声、ニーズを聞いて、それを 形にするという手法だ。しかし、良く考えてもらいたい。こういう動物の展示方法は、そもそもお客のニーズを聞いて生まれるものだ ろうか? いままでに存在しないものというのは、お客の声だけからは生まれない。この動物園もそもそもは飼育係が「こう見せたい」というのを主張して、それを組み上げて実施したからこそ、これだけの動物園になったはずだ。いわばお客の声だのニーズなどというマーケティ ング屋のキレイゴトとは無縁なところで生まれている。ここでも、ニーズを聞いて形にするという常識を打ち破っているのだ。 純粋に、動物といつもふれあっている飼育係がそれぞれの感性でそれぞれの動物をプロデュースするのだ。普段ペットとして買うことのない、ペンギンだの白熊だのという動物自身の良い所なんて、決 してお客にアンケートを取ったりして聞いたところで絶対に分からないはずのことだ。

■実は何が大事なのか

実はこの動物園の成功には、大切なことが2つ隠されている。

・負ける言い訳をはじめに作らないこと
・一番良い事を知っているのは、それに触れている人

 人口という言い訳は、地域活性化において、非常に多くの場面で聞く。特にイベント関係では少なくない。しかし、実際はどうだろうか?たとえば、安城市(約16万人)の七夕祭りに関しては、開催期間3日で100万人程度の観客動員が行われている。人数だけが成功の基準ではないが、人口を言い訳にしてもはじまらないのである。オンリーワンを目指すなら、そこに何人住んでいるかなんて、ほとんど関係ないのだ。そう考えると、地元の人以外、絶対購入不可能なサービスを構成しているならいざ知らず、普通のサービスや商品において自分の住んでいる都市の人口なんて、ただの言い訳に過ぎない。はじめから負け る言い訳を作ったってしょうがないのだ。

 そしてもう一つは、ニーズや顧客統計という神話から脱却することの大切さと言い換えてもいい。お客様の丁稚から生まれるビジネスは、決してオンリーワンにはなりきれないということだ。日本の場合、特にはじめの製品を作る段階から顧客の声を取り入れようとしがちだ。しかし、お客というのは、原則的に「いままでに存在しているものからしか発想できない」ものである。すなわちそれの集大成は、いままでに存在している何かの集大成でしかなく、純粋な意味で今までに無いオンリーワン商品にはなれないのだ。 はじめの仮説を作る段階や大元の製品のプロトタイプを作る段階は、お客の声を聞いても無駄なのだ。オンリーワンで成功したければ

自分達の持っているシーズで、自分達がいままでやってみなかったことで、 自分達が楽しいと思えることをやってみる

 その上で、審判をお客様に委ねるというのが、最も正しいサービスの開発手法であり、そうして成功して生まれた商品やサービスは本当のオンリーワン商品足りうるので、そうそう陳腐化しない。実は模倣も原則的には難しい。旭山動物園の手法を雨後のタケノコのように真似るところもあるが、うまくいっていないのがそのいい例 だろう。

■結論

 こうかくと小難しいが、結局どうすればいいのかといえば、要はまず、自分達のやってきたことに自信を持ち(自信を持てないなら自信を持てるような形でまじめに活動をしていくべき)、自分達のできる事、知っていることを真剣に議論し、その上で、誰もやっていないことをとりあえずやってみることだ。 そして、やってみた結果を「言い訳をすることなく」きちんと受け入れることである。その上で何か不足していれば他者に頼ってもいいだろうし、自分達の中身を磨くのも結構だろう。

まず自分ありき。しかる後、お客や市場がある。

この開き直りを、NPOやエコネットワークを構築したい皆様に期待したい。

 参考サイト

旭山動物園ホームページ


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